コツコツと毎月少しずつのお金を積立てていくことが資産を形成する上で最も有効な手段のひとつだと言われますが、毎月1万円の積立で1000万円の資産をつくることは可能なのでしょうか。今回は毎月1万円の積立投資で1000万円の資産を作り上げるために必要な考え方や具体的な戦略について解説していきます。
老後資金は4000万円も必要なのか
2017年3月に厚生労働省年金局から発表された「平成27年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況 」によると、月間の平均年金支給額は夫婦世帯で19万程度、独身世帯で11万円程度ということです。これに対し、総務省統計局の平生28年家計調査報告の数字を見てみると、老夫婦の月間平均支出額は26万円前後、独身高齢者の月間平均支出額は15万円前後となっており、月間不足額は一人あたり4万円程度ということになります。
日本人の寿命は伸び続けており、既に平均寿命は90歳近くまで来ています。仮に100歳まで生きるとすれば、定年退職から40年程度の期間を年金とそれまでの貯蓄で過ごしていかなければなりません。毎月一人あたり4万円の不足だと、40年間で2000万円程度の老後資金を蓄えておかなければ下流老人になってしまうリスクがあるというのが、FPがよく使う「夫婦二人の老後資金は最低でも4000万円は必要」という言葉の根拠なのでしょう。
しかしながら、日本の個人金融資産の60%以上は65歳以上の高齢者が保有しており、現役世代よりも裕福な生活をしている高齢者の生活支出も含めた平均値だけを見て、必要な月間の生活支出を計算しても意味はありません。また、60歳を過ぎたからと言って仕事をしてはいけないという訳ではなく、むしろ70歳くらいまでは元気に働きながら社会との接点を維持していくことが健康の維持にも役に立つものと考えられます。
まずは上記の公的年金額支給額を見て、自分の老後の生活費がどの程度不足しそうなのかを考えてみると同時に、60歳以降も働くことも視野に入れた上で現実的に必要な老後資産を把握しておくことが重要です。
積立投資は未来の自分への仕送り
年収が増えると支出も平行して増えていき、投資にまわすお金が増やせないという話をよく耳にします。そのような人も、将来に向けて毎月いくらかの金額は貯蓄にまわしており、子どもの教育費用や住宅の購入費用などといった具体的な使用目的に合わせた貯蓄についてはしっかりと行っている場合が多いようです。
貯蓄とは「ある目的のために一時的に資金をプールする」という行為であり、投資とは「未来の自分に向けた仕送り」を続ける行為だと定義できます。仕送りでは、一度お金が自分の手を離れてしまうとそのお金は消えてしまい、仕送りを受け取る人だけがそのお金を使うことができます。何が言いたいのかというと、「投資にまわしたお金は投資した時点で消えたものと考え、決してそれをあてにして生活してはいけない。」ということです。
例えば、60歳以降の自分への仕送りであれば、60歳になるまでは取り崩すことができないことを承知の上で行うのが投資であり、それまでに使うつもりがあるなら投資ではなく貯蓄として運用すべきだということです。積立投資は積立を続けることでドルコスト平均法によるメリットや複利効果を得ることができますが、途中で使ってしまっては十分なリターンを得ることができないということを理解した上で、行う必要があります。
毎月1万円は「iDeCo」で運用する
社会人なら少なくとも毎月1万円程度の資金を未来の自分に向けて仕送りすることは可能だと思います。普通の仕送りなら1万円を送った場合の受取り金額も1万円ですが、これを長期間運用することで2万円、3万円に増やし、老後の生活を少しでも豊かなものにするというのが今回の積立投資戦略の目的です。積立投資は積立期間が長ければ長いほど有利な運用が可能ですので、できるだけ早い段階からスタートするようにしましょう。
投資する口座としては「iDeCo」を利用します。「iDeCo」を利用する理由は抜群の節税効果が期待できるからです。「iDeCo」は積立てた金額の全てが所得から控除されますので、所得税と住民税を減らすことができます。
運用で得た利益に対する税金がかからないという点では「iDeCo」も「つみたてNISA」も同じなのですが、「つみたてNISA」は20年という期限のある運用なので出口戦略が必要ですし、「iDeCo」のような所得控除による節税効果がありません。「つみたてNISA」のメリットは「iDeCo」と違っていつでもお金を引き出すことができることですが、今回の積立運用では60歳まで積立を続けて1000万円をつくることが目的ですので節税効果の高い「iDeCo」を利用する方が有利です。
1万円の積立で1000万円を狙う
今回は30歳、年収300万円の人が毎月1万円を60歳になるまで「iDeCo」で積立運用して1000万円の金融資産を形成するための具体的な戦略を例に話を進めていきます。
毎月1万円を30年積立てた場合の積立元本は360万円です。毎年12万円の積立てが所得から控除される結果として毎年1万8000円、30年間で54万円の税金を節約して手元に残すことができます。つまり、投資元本の360万円とは別に54万円の資金を作ることができるということです。
積立元本の360万円と節税によって手元に残った54万円の合計414万円は、仮に年間利回りがゼロであったとしても30年間毎月1万円を「iDeCo」で積立てることで未来の自分に仕送りすることができる金額です。
「iDeCo」で定期預金を利用すれば確実にこの金額を未来の自分に送ることはできますが、これっぽっちの仕送りではさすがに老後の生活が不安になります。やはりここはある程度のリスクを承知の上で高いリターンを狙いたいところです。
30年の運用期間があるなら3%程度の利回りを狙うことは難しくはありません。仮に毎年3%の利回りで毎月1万円を30年間運用した場合のリターンは220万円前後となりますが、これでは1000万円には届きません。もう少しリスクをとって5%の利回で計算しても30年間でのリターンは470万円前後となり、積立元本と節税分も含めても880万円前後となり1000万円には少しだけ届きません。
年平均リターン6%が狙える運用対象
以上のことから、毎月1万円を30年間積立てることで1000万円の資産をつくるには6%程度の利回りを実現できるような運用を目指さなければならないということが分かります。ここ数年の株式市場の値動きだけを見ていると株式市場に投資しておけば6%のリターンを得ることは簡単そうに見えますが、どちらかと言うとここ数年の動きは特殊であり、誰でも儲かる相場であったと言えます。
そこで、直近の3年間を除いた1995年から2014年までの20年間のリターンを調べた結果、最も年平均の利回りが高かったのは米国株式市場(S&P500)の9.9%であることが分かりました。期間を変えて計算しても米国株式市場(S&P500)は年平均8%程度のリターンとなっており、6%のリターンを実現するためには米国株式(S&P500)への投資が最も有望であると考えられます。
教科書通りの運用を考えるのであれば、米国を含めた先進国の株式市場や新興国の株式市場などにバランス良く投資すべきだと思いますが、30年という運用期間で考えれば長年に渡って右肩上がりを続けている米国市場の株式のみに投資し続ける方がリスクは高くなりますが大きなリターンが狙えるはずです。
「iDeCo」で利用できる投資信託のうちで、信託報酬が0.3%未満の低コストで米国株式に投資する投資信託を探すと、S&P500に連動する投資信託は見つかりませんが、S&P500とほぼ同じような値動きをするNYダウの動きに連動する投資信託が2つ見つかりました。一つは「たわらノーロード NYダウ」、もうひとつは「大和‐iFree NYダウ・インデックス」で、どちらも信託報酬は0.243%と非常に低コストな投資信託です。
「たわらノーロード NYダウ」は純資産額がまだ数億円程度ですので今すぐ投資をスタートするなら「大和‐iFree NYダウ・インデックス」を選ぶ方がいいでしょう。
◆2017年12月29日:追記
「つみたてNISA」で人気化するのが確実視されている「楽天・全米株式インデックス・ファンド」が楽天証券の「iDeCo」対象銘柄として追加されました。「つみたてNISA」では楽天証券の他にもマネックス証券や松井証券なででも購入することが可能ですので近い将来においてはこれらの証券会社の「iDeCo」でも購入できるようになる可能性があります。
「楽天・全世界株式インデックス・ファンド」は信託報酬が0.169%と非常に低いだけでなく、米国株式市場全体の動きと忠実に連動する「バンガード・トータル・ストック・マーケットETF」を投資対象としおり、米国株式市場への投資には最適な投資信託であると言えます。「楽天・全世界株式インデックス・ファンド」の詳細につきましては以下の記事でまとめてありますので、是非ご覧下さい。
まとめ
毎月1万円の積立投資によって30年間で1000万円の老後資金をつくるには年平均6%のリターンを「iDeCo」を利用して狙う必要があります。過去の値動きが長期的に見て綺麗な右肩上がりとなっており、年率6%以上のリターンを30年以上続けているのは米国の株式市場だけであり、1000万円の資金を作り出す可能性が最も高い投資対象であると言えます。
リスクをおさえたい場合は先進国の株式市場に投資する「たわらノーロード先進国株式 」や「DCニッセイ 外国株式インデックス」を積立投資するという選択もありますが、リターンを優先するなら米国の株式市場のみに投資する「大和‐iFree NYダウ・インデックス」を積立投資をして1000万円超えを狙ってみてはいかがでしょう。
長期積立投資で米国の株式市場に投資すべき理由については以下の記事でまとめてありますので、是非ご覧下さい。