仮想通貨の交換業者が自らを「取引所」を名乗るのは今すぐやめるべき理由

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仮想通貨の画像

2018年2月6日の日経新聞によると、日経新聞では仮想通貨を扱う事業者のことを今後は「取引所」ではなく「交換会社」などと表記することに決めたようです。

どういった経緯で今までの「取引所」という表記を変更するに至ったのかは不明ですが、読者に誤解を与えかねない表記を修正したことは評価できます。

自らを取引所と名乗る交換業者もある

現在までのところ、財務局への登録が完了している仮想通貨の取り扱い業者は16社ですが、各社のホームページを見てみると、自らを「取引所」と呼ぶ業者がいる反面、取引所とは違うことをアピールしている業者もあります。

登録業者が自らを「取引所」と呼んでいることから考えると、金融庁としては「取引所」という名称の使用を禁止している訳では無さそうです。

本来、「取引所」というものに期待される役割とは、取引を集中させることによる流動性の確保、受け渡しの保証、公正な価格の形成と公表などですが、仮想通貨の取り扱い業者が行っている業務の実態とは少しかけ離れているように感じます。

東京証券取引所は金融商品取引法によって定められた基準をクリアした上で、金融庁から免許を取得して営業しています。これに対して仮想通貨の取り扱い業者は、金融商品取引法よりもややハードルが低い資金決済法によって登録を義務付けられた「交換業者」に過ぎません。

このような「交換業者」が、あたかも公共的な金融インフラを提供するというイメージの強い「取引所」の名前を使って商売をすることは違法ではないにしても、報道機関としてこのような「交換業者」のことを今後は「取引所」とは表記せずに「交換会社」と呼ぶということに異論を唱える人はいないはずです。

仮想通貨の交換業者と「くりっく365」

仮想通貨の交換業者が自己取引を行うことなく、顧客からの売買注文同士をぶつけることだけで注文を成立させる「オークション方式」によるマッチング業務のみを行っているのであれば、自らを「取引所」と呼ぶことに大きな問題はないと考える人もいるでしょうが、本当にそうなのでしょうか。

実際にFX取引でも東京金融取引所が運営する「くりっく365」と呼ばれるFX取引は取引所によるFX取引として既に10年以上の歴史を持っています。

「くりっく365」は厳密に言うと、顧客の注文をマーケットメーカーである大手金融機関が受ける「マーケットメーク方式」を採用していますが、取引所自身が自己取引でマーケットメーカーとなることはなく、取引所自身はあくまで注文のマッチング業務と証拠金の保全業務を行うだけです。

また、取引所自身は顧客を獲得することはなく、FX業者からの注文を受けるだけであり、FX業者が顧客を獲得し、獲得した顧客からの注文を取引所に取り次ぎます。これは、証券会社が顧客を獲得し、顧客からの注文を東京証券取引所に取り次ぐのと同じです。

これに対して仮想通貨の交換業者は自らがTVコマーシャルなどを利用して宣伝広告することによって自社の顧客を獲得しています。また、純粋な取引所業務とは別に、交換業者自身がマーケットメーカーとなって利ざやを稼ぐ業務を同時に行っており、取引所とは呼ぶには少し違和感があります。

仮想通貨の交換業者と店頭FX取引業者

仮想通貨の交換業者の業務の実態を見る限り、交換業者は店頭FX取引業者とほぼ同じ立ち位置にいるように見えます。しかしながら「自己取引の規制と開示義務」、「顧客資産の信託保全」などの点で、店頭FX取引業者は仮想通貨の交換業者よりも厳しいルールの中で営業を行っています。

自己取引の規制と開示義務

店頭FX取引業者は自社で顧客を獲得し、顧客からの注文を一旦は自己勘定で引き受けた後で大手金融機関に取り次ぎます。仮想通貨の交換業者も自社で顧客を獲得し、顧客からの注文を一旦自己勘定で引き受けた後で、必要に応じて他の仮想通貨交換業者に注文を取り次いでいるものと考えられます。

どうして「考えられます」という表現になっているのかと言うと、仮想通貨の交換業者に対して自己取引を規制するルールも、このような情報を開示するルールも存在していないからです。

店頭FX取引業者は金融商品取引法による厳しいルールが適用されており、自己資本規制比率の開示が義務付けられています。自己資本規制比率は120%以上を維持していなければ営業を続けることができないルールとなっており、業者の財務状態の健全性や業者が抱えるリスクについてもひと目で分かるようになっています。

自己資本規制比率は自社が抱えるリスクが大きいほど悪化しますので、よほど潤沢な自己資金を保有していない限り、大きな自己取引によってリスクを抱えることができない仕組みになっています。

これに対して仮想通貨の交換業者は資金決済法による登録業者ですので、金融商品取引法が定めるような自己取引を規制する仕組みや開示義務などがなく、極端な話をすれば値動きによっては会社が破綻するほどの自己取引を行っていたとしても、利用者はそれを事前に知る方法はありません。

顧客資産の信託保全

顧客資産の保全についても店頭FX取引会社は顧客資産を毎営業日計算して信託銀行に全額を信託保全しています。つまり、顧客資産に対して店頭FX取引業者は全く手を付けることができない仕組みになっている訳です。仮想通貨の交換業者は自己資金と顧客資金は別勘定として口座を分けて管理していますが、店頭FX取引業者のような信託保全の義務はありません。

そもそもFX業者から顧客が取引している「ドル」や「ユーロ」が流出するようなことは起こり得ません。顧客から預かっているのは証拠金だけであり、これらは信託銀行で保全されているため誰も手を出すことがきません。

仮想通貨の交換業者は顧客から仮想通貨を預かっていますが、信託銀行のような第三者に管理してもらうスキームを確立している業者は今のところ存在していません。

まとめ

仮想通貨の交換業者が行っている業務の実態を見ると、「取引所」と呼ぶには違和感があり、実際の業務内容は店頭FX取引業者と非常に近い内容になっています。

しかしながら、仮想通貨の交換業者は資金決済法の登録業者であり、金融商品取引法の登録業者である店頭FX取引業者のような厳しい規制を受けていません。

今回のコインチェックにおける仮想通貨流出事件は、仮想通貨の交換業者に対する規制のあり方や投資家保護の方法について改めて考えるよい機会だと言えます。仮想通貨やブロックチェーンの技術が社会にもたらすメリットを十分に考慮した上で、利用者を保護する仕組みを構築していくことが望まれます。