「つみたてNISA」で注意すべき投資信託の繰上償還リスクと回避法

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浜辺の黄色い旗

数年程度の運用期間であれば、あまり神経質に考える必要はないかも知れませんが、10年以上の運用期間を前提とした「つみたてNISA」の利用においては無視できないのが投資信託の繰上償還リスクです。今回は、投資信託が運用会社の都合で運用を終了してしまう繰上償還リスクとその回避法について解説していきます。

投資信託が繰上償還される理由

あらかじめ決められていた信託期間よりも短い期間で運用が終了する、あるいは信託期間が決められていなかった投資信託の運用が終了することを繰上償還と言います。

繰上償還が発生する例としては、信託期間が終了する前に予定していたリターンを上回る実績を出した場合や、想定していた運用環境が何らかの理由で激変してしまったことにより、運用を継続できなくなった場合などが考えられますが、最も多い理由は「人気が出なかったから」というものです。

平たく言えば、「この投資信託は思っていた程は売れなかったので、このあたりで運用をやめさせて頂きます。」という運用会社のギブアップ宣言が繰上償還だと言えます。

また、以前は売れていた投資信託であっても、購入額よりも解約額の方が多い「資金流出状態」が続いている投資信託にはいずれギブアップ宣言が出されることになると考えておいた方がいいでしょう。

繰上償還がなぜリスクとなるのか

保有する投資信託が繰上償還になったとしても、運用資金が消滅してしまう訳ではなく、ある程度前もって通知もあるので、残された期間のうちに別の投資信託に乗り換えれば問題ないとお考えになる方もいらっしゃるかと思います。

確かにその通りなのですが、いくつかのケースでは不都合が生じる場合があります。例えば、「つみたてNISA」で投資信託を100万円積立てたところで繰上償還となった場合、100万円分の投資信託を現金化した後、直ちに100万円分の投資信託を「つみたてNISA」の口座で購入することはできません。

「つみたてNISA」は年間40万円までの積立購入しかできませんので、積立てていた投資信託が繰上償還になったからといっても、1年間で再購入できる投資信託は40万円までなのです。

これに対して「iDeCo」では投資信託の乗り換えは自由に行うことができますので、繰上償還のタイミングに合わせて類似する投資信託に全額再投資することが可能です。「iDeCo」の運用で行うことができるスイッチングについては以下の記事で詳しく解説していますので、ご興味のある方は是非ご覧下さい。

確定拠出年金は「つみたてNISA」と違って運用している金融商品を好きなタイミングで自由に別の金融商品に乗り換えることができます。このような金融商品の乗り換えを「スイッチング」と言います。今回は確定拠出年金の特徴と、相場急落のタイミングにスイッチングを行うことのメリットについて解説していきます。

含み益のある投資信託が繰上償還になる場合よりも更に深刻な問題になるのが含み損が発生している投資信託の繰上償還です。なぜなら「つみたてNISA」の口座では利益が出ても損失が出ても、それらの損益は無かったことにされてしまうというルールだからです。

つまり、「つみたてNISA」の口座では利益が出たとしてもそれは無視されますので、税金を支払う必要はありませんが、損失が出た場合についても無視されますので、他の取引で発生した利益と損益通算してもらうことができませんし、確定申告による損失の3年間の繰り延べを受けることもできないのです。

この様に、繰上償還は投資計画を狂わせるだけでなく、税金面におけるデメリットを突然発生させることがあります。

ちなみに「つみたてNISA」や「iDeCo」のような非課税制度を利用しないで、特定口座などを利用する場合の長期積立投資では、含み益のある投資信託が繰上償還になると税金の問題が発生します。

利益が発生するようなタイミングで繰上償還が行われると、利益に対して20.315%の課税が行われ、手元に残った売却資金で別の投資信託に乗り換えても当初の運用額には戻らないため複利効果が減少してしまいます。

運用会社のシフトチェンジ

販売会社が儲かるシステム

運用会社が投資信託の運用を継続して行うためには、投資信託の運用によって運用会社に継続的な利益が発生する必要があります。

運用会社の儲けの大半は信託報酬と呼ばれるフィーから発生しています。信託報酬は運用額に対して年間数%という比率で表示されており、この数字が高いほど投資家が支払う運用コストは高くなります。

驚くことに信託報酬の半分程度は投資信託を販売する銀行や証券会社などといった販売会社の取り分となっており、運用会社に入るフィーは信託報酬の半分以下となっています。従って、投資信託の販売会社は販売時の手数料を稼ぐ以外にも、なるべく信託報酬の高い投資信託を顧客に売ることで収益を増やすことが可能です。

金融庁が求める顧客重視の営業姿勢

「つみたてNISA」のスタートをきっかけとして金融庁が「顧客重視の営業姿勢」を金融機関に強く求めるようにった影響もあり、信託報酬は、ここ数年で急激に引き下げられてきています。

以前であれば、信託報酬が3%前後のアクティブ運用型の投資信託を証券会社や銀行が積極的に販売し、短期間で別の投資信託へと乗り換えさせることで販売手数料を稼ぎ出すというビジネスモデルが日本の投資信託ビジネスの基本でした。

このビジネスモデルは運用会社も販売会社も高収益を確保できるという点では業界にとっては都合の良い収益モデルだったのですが、投資家にとっては運用コストが高くなるため利益が出しにくい環境となるため、現在では金融庁の圧力によってこのような顧客軽視の営業姿勢は許されなくなりつつあります。

そこで運用会社は販売会社を通さずに直販による投資信託の販売を行うことで信託報酬を引き下げたり、運用コストが比較的低く設定できるインデックスファンドの運用にも力を入れ、薄利多売のビジネスモデルへとシフトチェンジしてきています。

その結果、現在では信託報酬が0.2%を下回るようなインデックスファンドが数多く登場し、個人投資家が長期積立投資で十分なりターンを狙える環境が整ってきています。

新規設定本数の現象と償還本数の増加

下記グラフは一般社団法人投資信託協会が開示している「契約型公募投信の新規設定・償還ファンドの本数」のデータをもとに、当ブログで作成したものです。このグラフを見ると、2013年をピークに投資信託の新規設定本数が減少している一方で、償還本数は年々増加してしていることがお分かり頂けると思います。

ファンド本数のグラフ

このようなことからも、「目新しいテーマを見つけては次々に新しい投資信託を新規に設定し、短期間で投資信託を乗り換えさせる」というビジネスモデルの衰退が進んでいることが分かります。

同時に償還本数も増加していることから、投資信託のリストラが進んでいることも確かです。野村総合研究所によると2017年における投資信託の償還額は約2500億円となり、12年振りの高水準を記録しているとのことですが、2018年2月までの償還本数の推移から考えると2018年は更に償還額が増える可能性があります。

運用会社は運用や販売の効率化によって信託報酬を引き下げる必要があり、そのためには純資産の少ない(人気のない)投資信託については繰上償還も辞さない覚悟であることは間違いなさそうです。

運用会社が儲からないものは続かない

運用会社が受け取る報酬の絶対額は投資信託の純資産額がいくらなのかによって決まります。例えば、信託報酬が0.17%のインデックスファンドを運用する場合、純資産額が10億円なら運用会社が受け取る1年間の報酬は170万円ということになります。

このような投資信託の運用を続けていても運用会社に大きなメリットはありません。また、信託銀行や弁護士にかかる費用が運用収益を大きく圧迫するため投資家によってもこのような投資信託に投資する意味はないと言えます。

投資信託では運用コストと信託報酬から計算した損益分岐点を基準として、繰上償還になる条件があらかじめ投資信託説明書などに記載されています。

一般的には純資産額が20億円を下回るような状況が長く続くようであれば、繰上償還の可能性が高くなる傾向がありますが、信託報酬の低いインデックスファンドではもう少し大きな純資産額が必要になってくる場合もあります。

既に投資信託を保有されている方は、この機会に現在保有している投資信託の純資産額を確認してみてはいかがでしょう。マザーファンド方式の投資信託の場合は運用報告書に記載されているマザーファンドの純資産額がひとつの目安となりますので、こちらを確認しておきましょう。

繰上償還リスクの回避法

長期積立投資の運用パフォーマンスに直接大きな影響を与えるのは、投資信託のコストである信託報酬の大きさです。特にインデックスファンドでは信託報酬の差がそのままパフォーマンスに影響しますので、コストの低い投資信託を選ぶことが重要です。

しかしながら、信託報酬が低い投資信託はここ数年で設定されたものが多く、運用期間が短いため、純資産額もまだ多くない投資信託も見られます。

信託報酬の差があまり大きくないのであれば、なるべく純資産額が多く、順調に純資産額が増加している投資信託を選ぶことで繰上償還のリスクを回避することができます。

ただし、「iDeCo」や「つみたてNISA」向けに設定されたインデックスファンドは純資産額が小さくても純資産額の大きいマザーファンドに投資するタイプのものがほとんどです。

このようなインデックスファンドは設定日から1年未満で純資産額が少ない場合でも、マザーファンドの純資産が大きければ問題ありません。

マザーファンドの純資産額は運用報告書で確認できますが、運用が1年未満のインデックスファンドの場合は同じ運用会社の別のインデックスファンドの運用報告書などでマザーファンドをチェックしておきましょう。

目安としては純資産額が30億円以上で純資産額に減少傾向が見られない投資信託を選ぶようにしておきましょう。買いたい投資信託の純資産額が少ない場合は「つみたてNISA」ではなく「iDeCo」を利用して購入しておけば万一の場合の乗り換えがスムーズで、税金の心配も不要となります。

ちなみに「つみたてNISA」で事前の人気が高かった投資信託については純資産額が順調に伸びていることが確認できています。詳しくは以下の記事を是非ご覧ください。

「つみたてNISA」のスタートを前に、各運用会社は低コストで魅力的な投資信託を新たに設定し、激しい競争を繰り広げてきました。個人投資家にとってはありがたい状況ですが、新たに設定されたばかりの投資信託は純資産を集めることができなければ繰上償還のリスクが高くなりますので注意が必要です。

また、「つみたてNISA」と「iDeCo」の違いや組み合わせ方などについては以下の記事でくわしく解説していますので是非ご覧下さい。

この記事では「iDeCo」と「つみたてNISA」のメリットやデメリットについて説明し、これらを組み合わせて利用することで計画的に老後資金を積み立てていくための具体的な方法について解説しています。