2018年1月からスタートした「つみたてNISA」の対象商品は現時点(2018年7月3日)で149本の投資信託と3本のETFが投資対象となっています。
ただし、全ての金融機関でこの149本の投資信託を扱っている訳ではなく、「つみたてNISA」の口座を開設する金融機関によって取り扱い商品の数は異なります。
大手ネット証券ではほぼ全ての投資信託を取り扱う方針のところもありますが、本数が多くてもお客様が選びにくいという理由や会社サイドの純粋なコストの問題などを理由に149本の中から代表的なものだけを取り扱う会社もあります。
従って、「つみたてNISA」の口座を開設する金融機関を選ぶ際には自分が積立てたい投資信託を取り扱っているかどうかを予め確認しておく必要があります。
さて、「つみたてNISA」の口座開設が完了したらいよいよ積立てする投資信託を選ぶ訳ですが、149本もある投資信託の中から何を基準に投資信託を選べばいいのでしょう?
この記事では「つみたてNISA」で積立てる投資信託を選ぶ基準と出口戦略について考えていきます。
金融庁の投信選びはコスト重視
既にご存知の通り、「つみたてNISA」は「まとまったお金ができたら投資を始める」という発想ではなく、「若いうちから少額の資金をコツコツと積み立てていくことで将来に向けて金融資産を増やしていく」という考えに基づいた少額投資非課税制度です。
「つみたてNISA」を利用することにより、年間40万円までの積立に対して発生する利益を最長20年間にわたって非課税で受け取ることができます。「つみたてNISA」の詳細につきましては下記の記事をご参照下さい。
このように「つみたてNISA」は長期の積立投資を前提とした非課税制度です。投資信託を長期保有することよってリターンを積み上げていくために必要な条件として、金融庁はコストの低さを最重要視して対象商品を厳選しています。
そもそも5400本前後もある投資信託の中から144本しか対象となっていないことからも、金融庁が合格を出す投資信託のハードルの高さがよくわかります。
投資信託のコストとして最初に頭に浮かぶのは販売手数料です。証券会社の営業マンが勧める投資信託の販売手数料は2%~3%くらいものが多いと思いますが、「つみたてNISA」で採用されている投資信託は全て販売手数料が無料です。
次に思いつくコストとしては信託報酬があります。信託報酬とは投資信託の運営コストのことで、「つみたてNISA」の対象投資信託だと毎年0.16%~1.5%、一般のアクティブ運用の投資信託だと毎年2%~3%くらいの信託報酬がコストとして発生します。
信託報酬はリターンがプラスの年でもマイナスの年でも発生する「投資信託を保有するコスト」ですので少なければ少ないほど長期投資では有利に働きます。
金融庁は「つみたてNISA」の対象となるための条件として、信託報酬に厳しい上限を設定し、長期運用でリターンが出やすい投資信託を選んでいます。その中でも、特定の株式市場の値動きや指数に連動するインデックス運用の投資信託は、システマチックな運用が可能なため、信託報酬がかなり低く設定されています。
インデックス運用の投資信託は運用対象となる市場平均の動きに連動するように運用されますが、市場平均を上回るリターンを積極的に狙っていくのがアクティブ運用の投資信託です。アクティブ運用の投資信託ではファンドマネージャーが運用対象や売り買いのタイミングを指示して機動的に運用する必要があるため、信託報酬はインデックスタイプよりも高くなってしまいます。
信託報酬が高くても、それに見合うリターンがあれば問題ないのですが、統計的にはインデックス運用の投資信託よりもリターンが高くなるアクティブ運用の投資信託はアクティブ全体の2割程度しかないと言われています(運用期間10年以上の場合)。
金融庁が2000本程度あるアクティブ運用の投資信託から、「つみたてNISA」の対象商品として選んだのはたったの16本という結果となっており、長期積立投資にアクティブ運用の投資信託は向いていないという金融庁の考えが反映された結果となっています。
このようなことから考えて、「つみたてNISA」では信託報酬の低いインデックス運用の投資信託を主軸として選び、余裕があればリスク許容度に合わせてアクティブ運用の投資信託を組み合わせていくという方針で考えていきましょう。
具体的にどの投資信託を選べばいいのかについての最新情報は、以下の記事にまとめてあります。
期限のある積立には出口戦略が必要
ひとくちに長期投資といってもどれくらいの期間を長期と考えるのかは人それぞれです。「つみたてNISA」は最長で20年間非課税の積立投資が可能です。ここで問題となるのが今から19年後の株式市場がどのような状況になっているのかということです。
例えば、今から15年前に「つみたてNISA」に採用されているインデックス運用の投資信託に積立投資をしていた場合、積立は2002年からスタートし、2008年のリーマンショックで大暴落を経験し、積立資産は含み損を抱えたままの状態で4年以上経過した後、含み益に転じ、現在は40%くらいの含み益まで資産が増えているというのが標準的なシミュレーションの結果となります。
このように価格が上昇したタイミングで今から19年後をむかえることができればハッピーなのですが、もし今から19年後にリーマンショック級の大暴落が発生した場合、多くの人が評価損を抱えた状態で「つみたてNISA」の最終期限をむかえることになります。
最悪なことに、「つみたてNISA」がこのような相場下落局面で最終期限をむかえた場合、本来であれば含み損が発生している状態であるにもかかわらず、その含み損は無かったことにされてしまい、最終期限をむかえた時点の価格が買値として上書きされてしまうことです。
このように、実際の買値よりも低い買値に変更されてしまうと、例えば、実際の買値に戻った時点で売却した場合、現実には利益はゼロなのにもかかわらず、利益が出たことにされてしまい、支払う必要のない税金を支払わされることになります。
このように長期投資と言いながらも制度としての期限がある「つみたてNISA」では、どのようなタイミングで運用を終わらせるかという「出口戦略」を事前に準備しておくことが非常に重要となります。
さわかみファンドで有名なさわかみ投信が「つみたてNISA」に参加していない理由もその辺りにあるのではないかと考えられます。
出口戦略はiDeCoへのスイッチング
◆最初の10年が経過したら利食いを考える
今から20年後の株式市場を予想することは不可能ですが、これまでの経験則から考えて株式市場がどのような暴落をしても、統計的にはその後も積立てを継続していれば10年以内にはリターンがプラスに転じるものと考えられます。ただしこれはインデックスファンドでの国際分散投資による積立をした場合のお話です。
例えば、ITバブル期の高値掴みで有名な「ノムラ日本株戦略ファンド」はアクティブ運用の投資信託ですが、信託報酬が2%前後の高コストファンドだったこともあり元本割れの期間が17年間もありました。
「つみたてNISA」の運用では20年の積立期間のうち、最初の10年は無条件で積立を継続する期間と考え、もしもその10年間の積立てで思ったようなリターンが出ていないのであれば、その後の10年間は利食いのタイミングを見つける期間だと考えておくことをオススメします。
そしてもし、最初の10年間の積立てで納得できるリターンが出ているのであれば、迷うことなく積立てた投資信託を売却し、非課税でリターンを受け取りましょう。
例えば1ヶ月3万円を「つみたてNISA」で積立てたとして10年目だと360万円の資金を積立てることができます。運用によるリターンを年5%で計算すると10年間のリターンは105万円程度になりますので、全ての投資信託を売却すれば465万円の資金が手に入ることになります。
◆株式市場が暴落していたらiDeCoへ
不幸にも最初の10年の間に株式市場の大暴落などがあった場合は残り10年の積立期間の中でリターンが出るタイミングを積立を継続しながら待つというのが基本戦略ですが、残りの10年で株式市場が回復するという保証はどこにもないので不安だという人には別の方法もあります。
「つみたてNISA」の積立額を月額100円程度まで大幅に減額し、既に積立てた投資信託を毎月一定額ずつ解約して「iDeCo」の積立に回していきます。つまり、残りの10年で「つみたてNISA」から可能な限り「iDeCo」へスイッチングしていくことで、60歳までの積立期間と非課税で運用できる期間を伸ばしていく訳です。
同じ非課税制度の「iDeCo」を使って再び60歳まで積立てていくことで所得控除による節税効果だけでても165万円を超えるリターンを得ることができます(年収500万円の人が毎月2万3000円を30年間積立てた場合)。仮に年3%で30年間運用すれば運用によるリターンは512万円、積立元本は30年間で828万円ですので合計1340万円が老後資金として準備できます。
「iDeCo」は「つみたてNISA」と同じ長期の積立による非課税制度ですが、「iDeCo」はあくまで年金制度の一種であり純粋な投資とは異なります。
一番のデメリットは最短でも60歳までは引き出せないということですが、その代わりに積立額の全額が所得控除になるという強力な節税効果があります。
結婚費用や教育費用などの準備の目処が立っていないうちは、いつでもお金を引き出せる「つみたてNISA」のみの利用をおすすめしますが、ある程度の目処が立っているのであれば「iDeCo」へのスイッチングは選択肢のひとつになるでしょう。
「iDeCo」と「つみたてNISA」の違い、そしてこれらの賢い使い分け方については下記の記事で詳しく解説していますので是非ご参照下さい。
まとめ
「つみたてNISA」では前半の10年間を積立投資による資産形成の時期とし、その後の10年間は利食いのタイミングを見つけるための時間だと考えましょう。
「つみたてNISA」を利食ったら、その資金は一旦プールしておき、結婚費用、教育費用などといった将来の支出に備えましょう。そして「つみたてNISA」で積立てる予定だった毎月の積立金で「iDeCo」をスタートして節税メリットを60歳まで享受しながら、老後の資金を準備していきましょう。
不幸にも「つみたてNISA」の前半10年間で株式市場の暴落などがあった場合は残りの10年で利食いのチャンスを見つけましょう。それが不安な方は「iDeCo」へのスイッチングによって積立期間と非課税メリットを60歳まで先延ばしするというのも選択肢の一つです。
「つみたてNISA」を利用する際に最初に気を付けてもらいたい事が、利用できる投資信託が金融機関ごとに異なるという事です。「つみたてNISA」を利用する金融機関は一つだけしか選べませんので、低コストの投資信託を豊富に取扱っている証券会社を選ぶようにしましょう。
マネックス証券や楽天証券などといった大手ネット専業証券会社を選んでおけば、低コストの投資信託を豊富に取扱っているので安心です。